「いけばなは、枯れたらなくなるんですよ。そこが一番好きです」
花に携わって50年以上。草月流いけばなのオークランド支部長を務めるTomokoさんから返ってきたのは、意外な言葉だった。時間をかけて作った作品がなくなることは、なぜ魅力なのだろう。
日本で花の仕事を始め、NZでは英語で教えることに奮闘し、自ら事業も立ち上げた。その歩みと、今も変わり続ける花への思いを聞いた。
やめなかったのは、自分がやりたかったから
子どもの頃から、花がお好きだったのでしょうか。
特に花や植物が好きだったわけではないんです。母が花好きで、庭に花の咲く植物を植えていたのは覚えていますけど、私はどちらかというと、本を読んだり絵を描いたり、一人ですることが好きでした。
学生時代に、二つ年上の従姉妹がフラワーアレンジメントを習っていて、ついて行ったのがきっかけです。「ちょっとやってみたいな」と思い始めました。
でも、その頃の先生に「やめた方がいいよ」と言われたんですよ。それがすごく悔しくて、絶対にやめない、試験に受かってみせると思って頑張りました。
見返してやるということではないんですけど、やっぱり、自分がやりたいという思いがあったので。
そこから、仕事につながったんですね。
最初から仕事にしようとは全然思っていませんでした。資格を取ったので、経験を積むのと勉強のために、近所のお花屋さんに「雇ってくれない?」と言ったら、雇ってくれて。19、20歳ぐらいだったと思います。
そのお店で、学生時代とNZに来るまでの7年間働いていました。日本では忙しくて、土日も仕事でしたね。

花の技術があっても、英語で教えるのは別だった
NZへ来られたきっかけと、当時の仕事について教えてください。
1993年、主人がオークランド大学に職を得たので、家族で来ました。最初は家族をサポートするために家にいたんですけど、日本ではずっと働いていたので、すごく退屈で。
そんなとき、職業訓練校の講師の募集があって、応募したらすぐに決まったんです。
花について教える内容は、それまでずっとやってきたことなので問題ありませんでした。でも、英語は日常会話ならできても、人に教えたり、教材を作ったりするのは大変でした。毎朝5時ぐらいに起きて、教材を作っていましたね。
授業計画や評価の課題も、NZのカリキュラムに合わせて自分で作らなくてはいけない。他の人のものをコピーするわけにはいかないので、そこも大変でした。
自分のペースも、大切にしてきた
その後、独立されたのはなぜですか。
講師を6年ほどやったんですけど、教える仕事は、成績をつけたり書類を作ったり、花に触れる以外の仕事も多いんです。やっぱり自分でも花と関わりたいと思って、お花屋さんの店長として働きました。
それから、もう少し余裕を持った生活や、自分のやりたいことをしてみようと思って、2001年に自分のビジネスを始めました。
日本から来る方に、午前中は語学学校へ行ってもらい、午後は私のところでフローリストの技術を学んでもらう。2週間から6週間のプログラムをやっていました。

長く続けてこられた理由は、何だと思いますか。
そのプログラムだけでなく、依頼があればウェディングやお葬式の花もやっていました。それに自営なので、自分が行きたいときに海外旅行へ行って、その合間に働くようなところもありました。仕事をすることだけを優先していたわけではなかったんです。
最初はいろいろなことをやりましたけど、だんだん「私は花のところだけにしよう」と絞っていきました。何が自分に合っているか、うまくいくかは、やってみないと分からないですよね。
自分らしいことや、皆さんに楽しんでもらえることができたらいいな、という思いがありました。

一つ教わるつもりが、20年のご縁に
長年のフローリストの仕事から、草月流を学び始めたきっかけは何だったのでしょう。
2006年に、あるセミナーでフラワーアレンジメントといけばなのデモンストレーションをしてほしいと頼まれたんです。
フラワーアレンジメントのデモはしていましたけど、いけばなは学生時代に少し習っただけで、自信がなくて。それで今の先生のところへ行って、「一つだけ、デモンストレーションを教えてください」とお願いしました。
今考えると、全くの初心者がデモをするなんて、ずいぶん厚かましかったなと思いますけど、先生が丁寧に教えてくださったんです。
そのイベントもも無事終わって、これも何かのご縁かなと思い、その後、正式に入門しました。それから20年です。

二つの花の世界は、ご自身にとってどう違いますか。
私にとってフローリストは仕事で、どちらかというと職人なんです。花束が100個あったら、100個とも同じクオリティーで作れることが大切ですよね。
いけばなは、自分の楽しみであったり、その楽しみを皆さんとシェアするものであったりします。もちろんフラワーアレンジメントでも表現はできますけど、私にとっては商品という感覚でした。
いけばなは、もう少し個性的なもの。生徒さんがいければ、その生徒さん自身がいけばなにでます。アドバイスはしますけど、生徒さんの花は私の花ではないんです。

そこに暮らした人と、今も生きる植物
花との関わりで、特に心に残っている経験はありますか。
2024年にクライストチャーチの草月支部に呼んでいただいて、メンバーの方とレッドゾーンへ花材を取りに行ったことです。
※クライストチャーチの「住宅レッドゾーン」とは、一連のカンタベリー地震で深刻な被害を受け、住宅地としての再建が困難と判断された地域だ。Christchurch City Councilによると、オタカロ/エイボン川沿いを中心に602ヘクタールが指定された。そこには今も道や庭木が残り、かつて人が暮らしていた痕跡を見ることができる。
その場所で、どんなことを感じましたか。
道が残っていて、ここにはお家があったんだろうな、と思う場所に桜やボケがある。その人たちはきっと桜が好きで、毎年ここで見ていたんだろうなと思ったんです。
そこから材料を取ってきて、違う形でいけて見せる。そこに住んでいた方の思いを伝えたり、植物を違う形で生かしたりすることは大切なんだと、改めて感じました。
地震によって暮らしの風景は失われても、その庭に植えられた木々は、季節が来るたびに花を咲かせている。Tomokoさんが目を向けたのは、単なる「花材」ではなく、そこに確かにあった生活の記憶だった。
人がいなくなっても、植物は毎年、命をつないでいる。それがとても感慨深かったです。

なくなるから、前に進める
冒頭の「枯れたらなくなるところが好き」という言葉が印象的です。なぜ、そう思われるのでしょうか。
作品を作るときは、夜眠れないぐらい考えることもあります。でも、作ったら、そこで満足するんです。
なくなったら、また挑戦し続けられるじゃないですか。そこに執着がないから、前に進んでいける。
場所が変われば違うものがありますし、自分の感覚も日々変わります。20年前にいけた花と今の花は全然違うし、表現の仕方も違う。今の方が、もっと楽しいと思います。
これから挑戦してみたいことはありますか。
最近は、草月の先生というだけでなく、一人のいけばな作家として考えた方が、自分の世界も広がるし、違う形のチャレンジができるのかなと思い始めています。
例えば、音楽に合わせて、その場のインスピレーションで花をいけるような企画です。まだ形にはなっていないんですけど。
支部長としての役割はもちろんあります。でも、花をいけているのは私なので。自分の作品を作る時間は、全く自分の時間なんですよね。
いけばなは、私にとってライフワークです。ご飯を食べたり、散歩をしたりするのと同じように、もう生活の一部なんです。

「私だったらどうする?」と楽しんでほしい

Tomokoさんが支部長を務めるSogetsu Teachers’ Association Auckland Branchは、この秋、Eden Gardenでいけばな展を開催する。花と向き合ってきた彼女の現在の表現を、実際の作品として見られる機会だ。草月流の創流100周年を翌年に控えた今回は、個人作品に加え、出展者全員による壁いっぱいの共同作品も予定されている。
今回の展示会では、どんな作品に出合えますか。
草月流は2027年に創流100周年を迎えます。今回は、それに向けた「いける。生きる。」というテーマの展覧会です。その言葉をどう解釈するかは一人ひとり違うので、メンバーがどう表現するかを見ていただきたいですね。
全員で壁いっぱいになるような大きな作品も作るので、見応えがあると思います。
草月はクリエイティブなので、見る方も「私だったらどうするだろう?」という目で見ていただくと、より楽しいと思います。
初めていけばなの展示を見る方へ、メッセージをお願いします。
ワクワクして来てください。「今年は何が見られるだろう」と。
私たちも毎年、そのときのテーマに真剣に向き合って、努力を続けています。作品やデモンストレーションを見て、いいなと思ったら、ぜひ試してみてください。
でも、音楽や絵と同じなので、その場に来て、見て、楽しんでいただければ、私たちはもうそれでハッピーです。
展示会情報
Sogetsu Ikebana Exhibition
Ikebana. Life itself.
会場:Eden Garden
24 Omana Avenue, Epsom, Auckland
10月 3, 2026 (土)10:00–16:00
オープニング:11:00
デモンストレーション:11:30/14:00
10月 4, 2026(日)10:00–15:00
デモンストレーション:11:00/13:30
展示・デモンストレーションの観覧は無料。別途、Eden Gardenの入園料が必要です。
入園料:大人NZ$12/NZのシニア・学生NZ$8/12歳未満無料。
入園券は当日、入口・受付で購入できます。
主催:Sogetsu Teachers’ Association Auckland Branch
開催案内:https://edengarden.co.nz/ikebana-2026-october-3rd-and-4th/
入園料:https://edengarden.co.nz/visit-us/
Tomoko Hirano
HanaClub NZ
Email: hanaclubnz@gmail.com
Mob: 0211325521
※本記事は2026年9月に取材したものです。肩書き・所属等は取材当時の情報です。
NZDAISUKI ACHIEVERS
起業支援・ビジネスコンサルティング・M&A支援を行う伴走型コンサルティング会社。
起業家マインドの育成から商品設計、マーケット調査、現地での実践的なビジネス戦略まで幅広く対応。
個人事業から法人化、事業売買まで、あなたのステージに合わせた支援をします。
Website:https://nzdaisuki-achievers.com/
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=61571029004423
